非正規社員問題
非正規社員問題
非正規雇用に関する法改正の動きが激しくなってきています。労働者派遣法、高年齢者雇用安定法、パートタイム労働法、労働契約法(有期雇用法制)等の非正規雇用に関する法改正ははこれからもすすめられていくでしょう。
これらの非正規雇用は批判されることは少なくありませんが、実際には労働者数が急増しており、企業としては適切な労務管理を行って、活用することが求められます。そのためにも、関連する法律を正しく理解するとともに、とこにリスクがあるかを知って、リスクマネジメントの視点から対応することが必要となってきます。

非正規社員雇用の現状
   労働力調査(2011年平均)から非正規社員雇用の現状を確認する
   近年では、企業における人材利用が多様化し、非正規社員として起業に雇用される労働者の割合が高まっているといわれていますが、実際にはどのような雇用形態の労働者がどの程度の割合となっているのか、総務省統計局の「労働力調査」(平成23年平均)をみて確認しておきます。
平成23年平均の雇用者(役員を除く)は4918万人となり、前年に比べ25万人の増加となっています。このうち、正規の職員・従業員は3185万人と25万人の減少となった。一方、パート・アルバイト、派遣社員、契約社員などの非正規の職員・従業員は1733万人と48万人の増加となっっています。
男女別にみると、男性は正規の職員・従業員が2200万人となり、13万人の減少となる一方、非正規の職員・従業員は545万人と31万人の増加となっています。女性は、正規の職員・従業員が985万人となり、12万人の減少となる一方、非正規の職員・従業員は1188万人と18万人の増加となっています。

雇用者(役員を除く)に占める非正規の職員・従業員の割合は、平成23年平均で35.2%となり、前年に比べ0.8ポイントの上昇となっており、男女別にみると、男性は19.9%と1.1ポイントの上昇、女性は54.7%と0.7ポイントの上昇となっています。

なお、「労働力調査」では、勤め先の呼称によって雇用形態が区分されているだけですので、たとえば契約社員や嘱託社員が実態としてどのような働き方をしている労働者なのかは、明確になりません。ただし、契約社員や嘱託社員については、パートタイマーとの対比で、正社員とほぼ同じ所定労働時間を働く労働者が多いものと想定されます。
 

 


非正規社員増加の原因
   「労働力調査」における雇用形態別雇用者数の推移から、それぞれの時代において非正規社員が増加した原因を分析してみると、平成一桁代までは、正社員を含めて全体の雇用者が増加していく中で、家庭生活などの事情により従来就労しにくく買った層が、短時間のパートタイマーなどとして就労の機会を得ることで、パートタイマーやアルバイトを中心とした非正規社員の増加が見られたものと考えられます。

一方、平成二桁代は、正社員雇用が抑制される中で、正社員とほぼ同じ労働時間を働くフルタイムの期間雇用者や派遣社員を中心に非正規社員が増加しいるといえます。つまり、従来の正社員の要員不足を補うという非正規社員利用から、正社員の代替として非正規社員を利用するというように、その利用目的自体に変化がみられます。

こうした非正規社員の増加は、マーケットがグローバル化し、国際的な価格競争にさらされる企業において、正社員雇用で高額化した人件費を抑える必要に迫られた結果ともいえます。また、商品ライフサイクルが短命化したことに伴い、固定費となる正社員雇用の維持が難しくなり、これを流動費化するために非正規社員利用を活性化させている面もあるといえます。
 


非正規社員雇用の実務的問題点
  上記のようなマーケット状況のもと企業が生き残るには、非正規社員として短期間の期間雇用契約を締結して、その労働力を利用する以外には途はなく、その増加は必然といえます。

そこで問題となるのは、その従業員との信頼関係をいかに醸成するかということです。長期雇用では、その雇用保障の下での人間関係も含めた人間関係を含めた信頼関係の構築を考えることができますが、期間雇用ではそれも望めません。したがって、非正規社員との信頼関係の構築は、契約で約束した内容は守るという姿勢に求めざるを得ないといえます。
 


非正規社員を理解するためのポイント
非正規社員の雇用の世界を理解するには正規社員の雇用の世界を知る必要がある
  「非正規」とは「正規」の社員がいることを前提にした概念です。つまり、「正社員」と呼称される雇用形態と対比して「非正規社員」とは何たるかを考えていかなければなりません。そこでまたうは、正社員とは何かをできるかがり明確にしたうえで、これに対応する非正規社員の定義について考えていきます。
正社員の定義
  正社員とは、一般的に「期間の定めのない労働契約を締結している労働者」と定義されます。また、特に大企業における典型的正社員は、新卒採用を前提として「長期雇用を前提に社員教育や人事異動などにより、企業内でキャリアを形成し、活用していく労働者」とも位置付けられます。つまり、雇用が保障されていること(企業からの解雇が不自由であること)を前提に企業が自社の経営目標を達成するために都合よく社員の労働力を利用する雇用形態であるとえます。

また、近年では、平成19年12月に仕事と生活の調和推進官民トップ会議が策定した「仕事と生活の調和推進のための行動指針」において、「短時間正社員制度」なるものが働き方の一つとして取り上げられているように、正社員の定義も多様化されています。
正社員の特徴@ 新卒一括採用【入口論】
   上記のとおり、典型的な正社員とは、「長期雇用を前提に社員教育や人事異動などにより、企業内でキャリアを形成し、活用していく労働者」と定義することができます。したがって、まずは長期雇用という観点から、採用後、できるだけ長く働き続けてくれる人材を正社員募集の対象とすることが考えられます。また、社員教育や人事異動などを通じて社内キャリアを形成させていくという点からは、他の企業における就労経験のない者の方が、自社の企業文化を受け入れやすく、自社独自の企業内キャリアを形成しやすいという考えにつながります。
こうした点から、中途採用が増えているとはいっても、大企業の正社員の募集・採用方法としては、やはり、大学や高校を卒業したての新卒者を一括して採用するという新卒一括採用が主流であることに変わりはないといえます。その採用手続きも、筆記試験があったり、面接も複数回設定され、決済も本社決済であるなど採用手続きが厳格に定められている企業が多いといえます。
   正社員の特徴A 雇用保障(労働者側の利益)VS4つの変動装置(使用者側の利益)【展開論】
  正社員については、解雇権濫用の法理によって契約解消に大きな制限がかかり、強い雇用保障が働いていますが、労働者の雇用を保障するということは、使用者にとって経営の柔軟性が失われがちになるという大きなデメリットを有します。たとえば、アメリカのように解雇(レイ・オフ)が比較的容易に行える国では、急激な経営環境の変化から社会の業績が悪化した場合、解雇が有力な経営再建策の一つとなりますが、日本では、よほどの事情がなければ、現在の裁判実務では、これができません。つまり、日本では、使用者にとって、会社を健全に保つための有力な選択肢の一つを奪われていることとなるのです。

これに対し、雇用を守ることを代償として、日本の使用者には包括的な人事権が与えられています。日本の雇用社会で特徴的にみられる強力な人事権は、解雇が不自由になったことによって硬直しがちな経営に、柔軟性を与える特殊な装置ともいえます。その装置とは、次の4つが中心となります。

  @賃金変動装置
A労働時間変動装置
B労働力配置変動装置
C労働条件変動装置
 
@賃金変動装置とは、賞与システムのことです。つまり、賞与の一定額を業績によって変動することによって、正社員の人件費の一部を流動化しているのです。

A労働時間変動装置とは、通常の業務量に対して要員を少なく抑え、その要員不足を背社員に時間外労働させることによって補っておき、業務量が減ったら時間外労働を削減することで、正社員を解雇せずに人件費を削減するというシステムになります。つまり、時間外労働は、正社員の雇用を守るものともいえるため、使用者は正社員に対して強い時間外労働命令権を有することになるのです。なお、休日労働もこの労働時間変動装置の一つと機能していた時代もありましたが、週休2日が法定化され、賃金の割増率も時間外労働よりも高く設定されている現在においては、雇用保障の見返りとして使用者が強い休日労働命令権を有していると考えるべきではありません。休日労働の命令権の有効要素は、緊急性の有無と代替性の有無になると考えられます。

B労働力変動装置とは、長期雇用による職場のマンネリ化を解消し、組織の活性化をはかるてめの定期異動と、使用者が強い転勤命令権を有してその労働力の配置を行う装置のことをいいます。また、職種変更についても、その雇用保障の見返りとして使用者に認められた人事権の一つといえます。ただし、正社員といっても特約として「勤務地特定」や「職種特定」をした場合には、この限りではありません。

C労働条件変動装置とは、本来、契約締結時に使用者と労働者の合意で決定した労働条件を、使用者が一方的に変更することはできないはずのところ、解雇による人件費調整が困難となっている見返りとして、使用者が就業規則を変更することで、これを不利益に変更可能とする労働条件の不利益変更装置のことです。
正社員の特徴B 長期雇用決済システム【展開論】
  正社員の雇用の3種の神器として「終身雇用」「年功序列型賃金」「企業内組合」があげられますが、「終身雇用」と「年功序列型賃金」から、正社員の待遇の特徴として「長期雇用決済システム」が成り立っていることがいえます。日本の正社員雇用では、上記の労働力配置変動装置が機能しているため、職務と賃金の結びつける職務給の導入は困難とされています。定期異動や転勤命令による職種や勤務地の変更により賃金を変動させることは予定されていません。日本の正社員雇用では、労働力配置変動装置が機能するように、人と賃金を結びつける人属給が導入されています。人属給の中でも、学歴・年齢・勤続年数を評価軸とする年功主義人事が採用されています。そして、「年功序列型賃金」と「終身雇用」とを融合し、正社員の待遇について「長期雇用決済システム」が機能しています。つまり、若年者層の賃金は企業貢献度に比べて低く設定し、高齢者層の賃金は企業貢献度に比べて高く設定することで、社員の企業へのロイヤリティーをより長く維持させ、より高く向上させる仕組みが正社員に適用されています。若いうちはは貢献度よりも賃金が低くとも、たとえサービス残業があったとしても、高齢になれば貢献度よりも賃金が高くなるため、定年まで勤務すれば賃金と貢献度が決済されるため、雇用が保障されていることで企業と社員との信頼関係が築くことができるシステムといえます。
正社員の特徴C 解雇権濫用の法理【出口論】
   法律上では、解雇は自由にできる(理由は問われない)ことになります。しかし、経営者や人事担当者の使用者側または労働者側は、正社員の解雇は不自由との意識の方が大きいはずです。
それは、雇用者会が長期雇用システムを採用し、裁判所がそこで起きたトラブルの解決において、長期雇用が前提であったという雇用社会の実情を反映した判断を行っているからといえます。つまり、「使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を書き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効となると解するのが相当である」(日本食塩製造事件=最判S50.4.25)として確立した「解雇権濫用の法理」により、使用者が労働者を解雇するには、「客観的に合理的な理由」があり、「社会的相当性」が認められる場合でないとならないという大きな制約が課せられているのです。
 

正規社員と非正規社員の相違点
正規社員と非正規社員の相違点
   正規社員と非正規社員との相違点は、簡単に言うと、前述の正規社員の特徴が非正規社員にはないことといえます。
非正規社員の特徴@ 採用規制【入口論】
   厚生労働省の諮問機関である労働政策審議会労働条件分科会では、労働契約は無期契約が原則であり、有期労働契約は、「臨時・一時的な業務」に限定する締結事由規制(入口規制)を行うことを中心とする労働者保護のための規制について議論されていましたが、2012年3月16日の「労働契約法の一部を改正する法律案要綱」についての答申では、入口規制は除外され労働契約法には入口規制は規定さていません。企業の非正規社員の採用には何ら規制はありません。

また、非正規社員は有期雇用契約であることが多く、期間満了により労働契約は解消となることを前提としているため、採用手続きも、筆記試験がなかったり、面接回数も1回で済んだり、決済も店長や部課長決済で済んだりすることが多いといえます。
※正社員との採用手続きの相違も同一労働同一賃金を否定する一つの要素となりえます。
 

非正規社員の特徴A 正社員との同一労働同一賃金論【入口論】
   民法上、契約内容は当事者間で自由に決定できることが原則です。そして、労働法は労働者保護の観点から、労働条件の内容を規律していますが、これに反しない限りにおいては、労働条件も当時Y盛んで自由に決定できるのが原則となります。つまり、正社員と非正規社員、ことなる雇用形態に応じて、異なる賃金を設定することは、契約自由の世界にあるといえます。
パートタイム労働法第8条では、一定要件を満たしたパートタイマーについて、短時間労働という雇用形態だけを理由に労働条件について差別的取扱いすることが禁止されていますが、前述の非正規社員の特徴@や後述の非正規社員の特徴Bなどを形式的にも実質的にも正規社員との相違点が存在すれば、差別的取扱いにあたることはないと考えます。
 

非正規社員の特徴B 雇用保障VS4つの変動装置【展開論】
  非正規社員は雇用保障が弱いため、企業は非正規社員に対して上記の4つの変動装置を機能させることはできません。4つの変動装置は雇用保障の見返りに企業に備えられている機能であるので、雇用保障が弱い非正規社員に機能しません。
 

非正規社員の特徴C 雇止めに対する解雇権濫用法理の類推適用【出口論】
   契約の期間の定めがあれば、期間満潮とともに契約が終了するのが大原則です。そして、法律上であれば、契約期間の定めがなければ、原則としていつでも契約を解消することができ、契約期間の定めがあれば、その契約期間中は原則として解消することができません。したがって、身分保障の面からいえば、契約の法理論を前提とする限り、契約期間の定めをしていない正社員よりも契約の定めがあるフルタイマーの方が厚く保護されているということになります。
ところが、日本の雇用慣行である終身雇用制が、大企業を中心として正社員に対して長期雇用決済システムを確立し、裁判所も使用者の解雇について、解雇権濫用の法理の適用を判例化したことにより、事実上、解雇不自由の実務体制がとられることになりました。これにより、期間が満了すれば契約が終了する非正規社員よりも、正社員の方が身分が保障されることとなっています。

正社員に対する長期雇用決済システムの確立により、雇用の調整弁として雇用されることになった非正規社員について、契約当初から雇用継続の期待を持たせるような言動がなせれ、現実に雇用手続きがずさんな形で契約期間が何度も更新されて長期雇用化した場合に、各契約満了ごとに契約は終了するという法解釈上の原則を貫くことに疑問がもたれるようになりました。そして、このような場合に、契約更新拒絶について解雇権濫用の法理が類推適用され、解雇手続と解雇理由が要求されるという裁判例が見られるようになったのです。

しかし、解雇権濫用法理の類推適用は例外的な取り扱いと考えるべきです。契約が更新されたとしても、各契約期間は各々独立したものであり、その期間が満了すれば、当然に契約は終了するものです。契約期間が更新されたという事実があるからといって、解雇権濫用法理が類推適用されるわけではありません。
解雇権濫用法理が類推適用される場面とは
  解雇権濫用法理の類推適用は、単に更新回数が多いとか、通算期間が長いという事実だけで類推適用されるわけではなりません。次の@〜Eの事情を総合的に勘案し、雇用継続の期待度の強度、その期待が社会的に合理他駅真野で法的に保護する価値があるのかどうか、そしてその保護の程度を裁判所が判断しているといえます。
詳細は厚生労働省のリーフレットを参照してください。
厚生労働省リーフレット有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準について
  @契約の客観的内容
A契約上の地位の性格
B当事者の主観的態様
C更新の手続・実態
D他の労働者の更新状況
Eその他
 


非正規社員の雇用形態
パートタイマー(短時間労働者)とは
  パートタイマーとは短時間労働者のことをいい、パートタイム労働法第2条では「1週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働時間に比し短い労働者」と定義されています。また、厚生労働省の毎月勤労統計などにおけるパートタイマーの定義も「1日の所定労働時間、または1週間の所定労働日数が当該事業場の一般労働者よりも短い労働者」として、労働時間の長短に着目しています。また、総務省労働局の労働調査では、パートタイマーの意味について、「週間就業時間が35時間未満の労働者」と定義しています。
 

フルタイマー(有期雇用者)とは
  フルタイマーとは、一般的に「期間の定めのある正社員と同じ時間を働く労働者」といわれています。パートタイム労働法第8条では、一定要件を満たしているパートタイマー(短時間労働者)について、雇用形態の違いだけを理由に正社員と異なる差別的取り扱いをすることを禁止していますが、フルタイマーにおいても、平成21年2月から、有期労働法制の見直しを進めるため、厚生労働省に有期労働契約研究会が立ち上げられ、フルタイマーの「通常労働者との均衡待遇の推進」について議論されています。
 
定年後再雇用者(嘱託)とは
  定年後再雇用者とは、65歳未満定年制(例えば60歳定年制)を設けている会社において、高年齢雇用安定法第9条により原則65歳までの雇用確保措置が義務付けられていることから、これに従い定年退職した後に再雇用した労働者をいいます。希望者全員若しくは一定基準を満たした労働者を再雇用します。一般的に、期間の定めのある労働契約であり、嘱託と呼ばれることが多い。
 

アルバイト、フリーターとは
  アルバイトとは、一般的に「他に本業がありながら、生活の副収入を得る目的で就労している労働者」をいいます。例えば、本業が学業でありながらお小遣いを得るために就労する学生などが代表的です。学生アルバイトは、学校を卒業するまでの就労が前提となりますが、卒業後も定職に就かず、学生時代と同様のアルバイト的な就労を続ける労働者をフリーターといいます。フリーターについては、労働力調査を行っている総務省は、年齢15歳〜34歳で、男性は卒業者、女性は卒業者で未婚の者とし、@現在就業している者については勤め先における呼称が「パート」または「アルバイト」である者A現在無業の者については家事も通学もしておらず「パート・アルバイト」の仕事を希望する者と定義しています。厚生労働白書においても同様に定義されています。
 

契約社員とは
  契約社員という言葉は、期間の定めのある雇用契約の形態の中で、様々な就労形態を指すものとして使われており、一義的には定義できませんが、上記で説明してきたパートタイマー等の雇用形態を含めた広義の意味で用いられる場合と、専門能力・成功報酬額の労務提供を前提とする狭義の意味で用いられる場合とがあります。
 
外国人労働者とは
  外国人が日本に入国し在留するためには、入国審査官に上陸申請をし、審査を受けなければなりません(入管法第6条2項)。そして、入国管理官は、旅券(パスポート)や査証(ビザ)が有効であるか、在留資格の基準に適合するかを審査したうえで、上陸許可(在留許可)を出します(入管法第7条1項、第9条1項)。外国人労働者が日本国内で就労するためには就労可能な在留資格(「活動に基づく在留資格」)を持っていることが必要です。入管法では、高度な技術や専門性をもった外国人にのみ就労可能な在留資格を付与することされており、単純労務作業に従事する外国人労働者は受け入れないことを原則としています。ただし、「永住者」や「定住者」などの「身分または地位に基づく在留資格」が付与されている外国人については、活動に制限がなく、単純労務作業を含めて日本国内での就労が可能です。また、資格外活動の許可をもらうことで一定時間数のアルバイトが許されている外国人留学生や就学生も単純労務作業の就労が認められています。
 


労働力の直接利用と間接利用
企業が労働力を利用する形態としては、労働者と直接契約をし直接利用する形態だけではなく、他企業(他人)が雇用する労働者を、当該他企業との契約を介して間接利用する方法があります。

労働者派遣
   労働者派遣とは、「自己の雇用する労働者を、自己との雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対して当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まない」と定義されています(派遣法第2条1号)。後半分の「当該他人に対して当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするもの」とは在籍出向のことを指し、在籍出向は労働者派遣にから除くという意味です。

労働者派遣は「雇用」と「使用」が分離した雇用形態である、と表現されます。

労働者派遣を行うには、行政の許可(一般労働者派遣)や行政(特定労働者派遣)への届出が必要です。許可や届出なく労働者派遣を行うと、それは職業安定法第44条で禁止されている労働者供給に該当し罰則が適用されます。そして、労働者派遣法上の罰則は派遣元にしか適用されませんが、職業安定法上の罰則は供給元だけでなく供給先にも適用されます。逆の視点でみれば、職業安定法で禁止されている労働者供給を合法的に利用できるようにしたものが労働者派遣という労働力利用になるといえます。
 

派遣関係図

 

 

出向
  労働者供給に該当する形態であるが、「業として行われていない」ものは出向とされ、職業安定法第44条に抵触しないとされています。厚生労働省によると「業として行われている」か否かは次の4点を基準に判断するとされています。出向としておきながら、「業として行われている」と判断されると、労働者派遣法違反ではなく職業安定法違反となるため元と先の両方に罰則が適用されます。
  @労働者を離職させるのではなく、関係会社において雇用の確保の機会を目的とするもの
A経営指導、技術指導の実施を目的とするもの
B職業能力開発を目的とするもの
C企業グループ内の人事交流を目的とするもの
 

出向関係図

 
請負
  請負とは、手段としての労働力ではなく、労働の結果である仕事の完成を目的とします(民法第632条)。たとえば、ある部品の製造を請負企業に発注したとすると、発注企業(注文主)は請負企業で製造された部品の完成を待ち、その結果に対して報酬を支払うこととなるのです。つまり、請負では、派遣と異なり、注文主が直接請負企業の労働者に指揮命令することはできないという点に大きな特徴があります。
ただし、派遣との区分概念で用いられる請負には、仕事の完成を目的とする民法上の請負に限らず、事務(業務)処理などの委任・準委任も含まれます。たとえば、必ずしも仕事の完成を目的としないビルの管理や清掃、受付業務といった単なる事務(業務)処理であっても、請負企業が当該業務を受託し、独立して処理するものであれば、派遣との区別の関係では右傾おいてして定義づけられています。
   

業務委託関係図

 

 



偽装請負・偽装出向・偽装派遣の法的リスク
 

「偽装請負」とは、本来は直接指揮命令ができない請負契約(業務委託契約)で働く労働者に対して、注文者が指揮命令を行っている状態を指します。請負契約(業務委託契約)であるにもかかわらず、雇用関係がない注文者が直接指揮命令を行ってしまうと、労働者派遣法に定める適正な形での人材供給がなされていないと判断され、違法派遣状態に陥っていることになります。なお、契約書など形式上の問題ではなく、実態がどのようであるかを判断されます。 受託者としても派遺なのか請負なのかを明確にして指揮系統の確認など、契約内容に応じた扱いを行うこと、もしくは契約内容の変更が求められます。

偽装請負となっていた場合、次のような法的リスクがあります。(1)労働者派遣事業の許可を受けず(一般派遣)に、または届出(特定派遣)をせずに偽装請負により労働者を派遣している場合@派遣禁止業務への労働者派遣(派遣法第4条1項)については、1年以下の懲役または100万円以下の罰金(派遣法第59条1号)A派遣事業の許可を受けずの労働者派遣(派遣第5条1項)についても、1年以下の懲役または100万円以下の罰金(派遣法第59条2号)B派遣事業の届出なしの労働者派遣(派遣法第11条1項)については、30万円以下の罰金に科せられるおそれがあります。(2)労働者派遣事業の許可を受けず(一般派遣)に、または届出(特定派遣)をせずに偽装請負により労働者を派遣しを受け入れている場合(派遣法第24条の2)については、行政指導・助言(派遣法第48条)、勧告(派遣法第49条の2第1項)、勧告に従わない場合は企業名公表(派遣法第49条の2第3項)を受けるおそれがあります。

偽装出向とは、前述の偽装請負を回避するために、注文者と雇用契約を締結している労働者を請負会社に出向させる形で当該労働者と請負会社に雇用契約を発生させ、当該出向労働者が請負会社の労働者に指揮命令を行う状態のことを指します。偽装出向となると、職業安定法44条違反となり、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に科せられるおそれがあります(職業安定法第64条)。しかし、請負会社の労働者の技術的教育を目的として、注文者から請負会社に労働者を出向させ、当該出向労働者を請負企業の労働者の教育研修に当たらせることは可能だと考えられます。
 

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